エルサレムをイスラエルの首都に-トランプ大統領が正式表明
エルサレムをイスラエルの首都に
アメリカのトランプ大統領が2017年12月6日に、エルサレムをイスラエルの首都として認めることを正式に発表しました。
この正式発表はただの1ニュースには終わらず、非常に大きな意味を持ちます。
エルサレムはキリスト教、イスラム教、ユダヤ教の聖地であり、この場所をイスラエルの地と認めることはアメリカがエルサレムがユダヤ教のものだと認めることと同義になります。
これはアメリカのパレスチナ問題に対する方向性の転換を意味し、今後の中東和平に大きな影響を与えます。少なくともよい方向には進まないと思われます。
ここでは、世界遺産とも関係した話をしていきます。
まずは、背景から確認していきましょう。
パレスチナとイスラエル
パレスチナは2つの地区に分かれており、東をヨルダンと接している「ヨルダン川西岸地区」と、南をエジプト「ガザ地区」に分かれています。ヨルダン川西岸地区とガザ地区は「パレスチナ自治区」とされていますが、世界の国々(国連)からは現在も国として認められておりません。
歴史を古くまでは辿りませんが、イスラエルのあるパレスチナという地域は第一次世界大戦まではオスマン・トルコの支配下にあり、ユダヤ人、アラブ人が宗教は違えど、争いもあまりなく、共生をしていました。
しかし、第一次世界大戦のオスマン・トルコとの戦争時にパレスチナ問題の始まりとなる出来事が起こりました。
その原因はイギリスにありました。
イギリスはオスマン・トルコに勝利するため、いわゆる「三枚舌外交」をするのです。
三枚舌の相手とは、フランス・アラブ・ユダヤに対してです。
フランス - サイクス・ピコ協定(1916年)
フランス、ロシアの間で結ばれた第一次世界大戦後のオスマン帝国領の分割を約した秘密協定。
ユダヤ人 - バルフォア宣言(1917年)
オスマン・トルコとの戦いに協力すれば、パレスチナの地に国家の建設に賛同を表明すると宣言
アラブ人 - フサイン・マクマホン協定(1915年)
オスマン・トルコとの戦いに協力すれば、アラブ国家の独立に協力することを約束
もちろん、これらはすべて成り立つはずもなく、矛盾した外交でありました。
この三枚舌外交により、ユダヤ人、アラブ人は対立することとなります。
無責任な態度を示したものの、収集がつかずこの自体をイギリスは国連に委ねます。
そして、
1947年 パレスチナ分割決議案
が採決され、その後
1948年 イスラエル建国
当然のことながら、ユダヤ人が独断でパレスチナの地域に国を建国したのですから、ヨルダンを始めとするイスラム諸国がイスラエルを侵略しようとします。
これが、中東戦争と言われるものです。
中東戦争は計4度行われ、第一次(1948)、第二次(1956)、第三次(1967)、第四次(1973)と長い間続きました。
ここまで、大きなものになったのは、ユダヤ教とイスラム教という「宗教問題」だけには止まりません。これには、パレスチナ地域の場所も大きく関わってきます。
パレスチナはユーラシア大陸とアフリカ大陸のつなぎ目にあるため、どこの国もここを要所としたいと考えた「領有問題」でもあったのです。中東戦争を経て、パレスチナの勢力図は下記のように変遷し、イスラエルが勢力を拡大させていきました。
その勢力拡大の背景には、今回の問題となっている「アメリカ」が大きく関わっていたのです。
アメリカはなぜイスラエル(ユダヤ人)に肩入れするのか
なぜアメリカはここまでしてパレスチナ問題に対し、イスラエルの味方をするのでしょうか?ただ、ナチスドイツによるホロコーストに同情して、ユダヤ人の国家であるイスラエルの味方をしているだけではありません。
これにはアメリカの政治における深い闇が関係してくるのです。
ユダヤ・ロビー
アメリカの政治家が肝に銘じている、「ある常識」がある。
それは「ユダヤ人を敵に回したら、選挙に勝てない」ということである。
アメリカとイスラエルの深すぎる関係。世界制覇を目前とするユダヤ人たちの暗躍。: 英考塾
そうです。アメリカで政治をするにあたって、ユダヤ人は無視できないのです。
アメリカ合衆国におけるユダヤ人の人口割合は1.7%に過ぎず、528万人にしかいません。しかし、ユダヤ人はよく言われているように世界一賢く、企業経営者や政治家を多く輩出し、また投票率も高いため、反イスラエルの発言をすると、選挙で落選に追いやられるのです。
これらはユダヤ・ロビーと言われ、アメリカの政治家を戦々恐々とさせています。
米国には約530万人のユダヤ系市民がおり、活発な政治活動で知られる。その数は、米国の人口の2%以下に過ぎないが、その組織率と投票率の高さ、大統領選挙の際に重要なニューヨークやイリノイなどの州への人口の集中、マスコミ、大学など言論界での発言力の大きさなどの要因が合わさって、政治的に無視できない力を有している。伝統的にユダヤ人の大半が民主党支持で、民主党の大統領には特にユダヤ人の影響力が強い。しかし、近年になって共和党支持のユダヤ人も増えてきた。その諸組織は、ユダヤ・ロビーとして知られている。ユダヤ・ロビーは、その力をイスラエルのために行使してきた。
トランプ家とユダヤ教
そして、さらにトランプ家はユダヤ教とさらに関係が深いのです。
トランプ家の宗教は、イギリス起源のプロテスタントであるが、娘のイヴァンカは娘婿となるクシュナーとの結婚する際、プロテスタントから正統派ユダヤ教に改宗しました。
このこともトランプ大統領がユダヤ人と贔屓にする要因となりえるのでしょうか。
日本の基本姿勢
我が国は,イスラエルと将来の独立したパレスチナ国家が平和かつ安全に共存する二国家解決を支持している。我が国は,イスラエル及びパレスチナ自治政府双方に対して,二国家解決を可能な限り早期に実現するため,互いの信頼関係の構築に努め,交渉再開に資さない一方的行為を最大限自制し,直接交渉の前進を図るべく一層努力するよう呼びかけている。
日本は外務省が上記のような基本姿勢を表明しており、イスラエルと将来の独立したパレスチナ国家が共存共栄する二国家解決を支持する立場にある。
もともとアメリカもこの姿勢ではあるが、トランプ大統領の今回の表明は、パレスチナの独立を無視したイスラエル側にたった態度であり、二国家共存の立場とは異なるものである。
日本が今回のトランプ大統領の発言に対し、どのような態度をとるかは非常に興味深いものであるが、従来の立場を変えず、中立的に共存共栄の実現に向けて、協力する体制を誇示してもらいたいと考えます。
イスラエル/パレスチナとユネスコ(UNESCO)
今回の発言より前にもアメリカはイスラエルとともにユネスコを脱退する表明をしています。
例えば
アメリカはユネスコが「反イスラエル的態度で政治的に中立ではない」という理由から2018年12月31日にユネスコを脱退するとしています。
アメリカは以前にも2011年にユネスコがパレスチナを正式に加盟したときにユネスコ分担金の拠出を停止したことがあります。これはユネスコがパレスチナを実質的に国家として認めたという意味だからです。
パレスチナは暫定自治は認められていますが、依然国連からは国家としては認められておりません。パレスチナはそれを実効的に国家と認めさせるようにユネスコなど国連の関連機関からこのような動きをしているのです。
パレスチナにある世界遺産
パレスチナは国際連合では正式な加盟国になれていませんが、ユネスコに2011年10月31日に、総会で可決され(賛成107か国、反対14か国、棄権52か国)正式な加盟国として承認されました。その後、世界遺産条約を2011年12月8日に批准しました。
2017年12月7日現在、パレスチナには3件の世界遺産があります。
今回は、その1件を紹介します。
イエス生誕の地:ベツレヘムの聖誕教会と巡礼路
イエス生誕の地 : ベツレヘムの聖誕教会と巡礼路|パレスチナ 文化遺産|世界遺産オンラインガイド
国名:パレスチナ自治政府
分類:文化遺産(危機遺産)
登録年:2012年登録
登録基準:(iv)(vi)
世界最古の石造教会、ベツレヘム生誕教会
前述の2011年世界遺産条約批准後すぐに登録された世界遺産。
また、イスラエル・パレスチナ問題により教会の維持、修復が進まないことから世界遺産登録と同時に危機遺産に登録された。
ベツレヘムはエルサレムより南に10kmほど行ったところに位置する。
ベツレヘムの生誕教会はイエス・キリストが生誕した場所として建てられ、その入り口付近にはかの有名な馬小屋として使われた洞窟も存在する。この初期キリスト教会の特徴を残す聖誕教会に加え、この巡礼の最終目的地に向かうための巡礼路と鐘楼、ひな壇式庭園、ラテン・ギリシア正教・フランシスコ会・アルメニア教会の女子修道院や教会群なども指定対象である。
今回のトランプ大統領の発言は物議を醸しだしており、この発言に賛同する国、非難する国が出てくると思います。
確かに中東和平はここのところ大きな進展は見られませんでした。そういう意味では大きく動き出そうとするターニングポイントなのかもしれません。
しかし、良い方向に進むとは思えず、トランプ大統領、ひいてはアメリカ合衆国はどのような思惑があって、今回の表明をしたのでしょうか。純粋に中東情勢をよくするために行ったとは思えません。やはり、政治的なことが絡むように思えてなりません。